この投稿は10/14の日科技連特別講義のチャットで頂いた質問への回答です。 (→回答一覧へ)
【質問】Amazonでパワーポイントを禁止している件についてどう思われますか?
「図解」は、コミュニケーションや問題洗い出しなどで非常に有効だと思っていますが、下記のように頑なに文字化することを推奨する方々もいます。コメント頂ければ幸いです
→ アマゾン創業者が「パワポ」を禁止した納得の理由 | アマゾンの最強の働き方 | ダイヤモンド・オンライン
【回答】やっていることは本質的にはロジック図解と同じです。会議参加者の理解促進・能力向上に大きな効果があると考えられますがそれが成り立つハードルは高いでしょう。
最初に言っておきたいのは、情報はその種類によって最適な表現方法が異なるもので、人類がその長い歴史を通じて開拓してきたそのさまざまな表現方法は人類の叡智の結晶であること、それを切り捨てて 「文章だけ」 を強制することが合理的とは考えられない、ということです。
にもかかわらずAmazonが 「文章の強制」 のように見える方針を採っているとしたらそこには何か理由があるはずで、その理由を知っておくことには意味があるでしょう。 ( 「パワポ禁止」 の方針をうわべだけ真似たり逆に反発したりするのはあまり建設的ではなさそうです)
ではその 「理由」 とは何かですが、私自身はAmazonの会議を直接知るわけではないので書籍やWeb記事等の公開情報から推測すると、 「会議参加者の理解促進・能力向上」 の効果が大きいだろうと思われます。
以下、その根拠を説明します。
Amazonの会議ルールに従うと、議題の提案者は資料を提出するにあたって、大量の情報を圧縮し、厳選された情報だけで論理を構成した上でそれをナラティブ化(文章化)しなければなりません。そして参加者はそれを会議の初めに口頭説明を受けず 「ひたすら読む」 ことにより自力でその論理構成を読み解くことを強いられます。 これは、会議参加者(資料の書き手・読み手の双方)の理解促進・誤解防止・能力向上に大きな効果があると考えられます。
ただし 「情報の圧縮・論理構成・ナラティブ化」 のいずれにしてもたとえばコンサルティング会社ではロジカルシンキングやプレゼンテーションスキルの一環として徹底的に叩き込まれるもので、パワーポイントではできないという種類のものではありません。 しかし、パワーポイントでの一般的なスライド作成スタイルを 「うわべだけ」 真似ると確かに論理構成の甘い資料ができやすいのは事実です。 そこで、 「会議の場」 に限定してWord・1ページ原則を適用することにより、その悪影響を排除しメンバーの能力向上を図ったのではないかと思われます。
そう考えるとこれはこれで 「なるほど、勉強になる!」 という種類の方針ではありますが、ただ、実際にこれが成り立つためにはもともと知的能力がある程度高いメンバーが揃っている、組織内でとことん考え抜く文化がある、権限と責任が適度に配分されている、などの条件が必要で、簡単に真似できるものではなさそうだ、と私は感じました。
なお、ロジックを図解するときも、最終的に文章にするかどうかが違うだけで途中の過程では本質的には同じことをやっています。