文章や図を書く力を身につけるのは、外国語を学ぶことに似ています。 何が似ているのか、おおまかに挙げていくと
(4)法則的知識を知っておくと学習スピードが速くなるのに、なぜか軽視されている
といったところです。
(1)必要な知識は難解ではないが、量が多い
たとえば英語であれば he, she, this, that, is, are, speak, walk, write… 等々、大量の単語を覚える必要があります。単語自体は難解なものではないですが何しろ数が多いですね。英語の新聞や小説を読むにはおよそ8000?10000語が必要と言われています。
実は日本人が日本語で何か書く場合にもこの「単語の壁」は結構あります。というのは、「日本人だから日本語は知っている」かというと意外にそうでもなく、仕様書、提案書、報告書などの「仕事で使う文書」の表現は日常使うものではないので、「読めるけれど、書けない」というケースが多発するためです。私が図解の講座をやっていても、ラベルをつけるときに「ちょうどいい言葉が思いつかない」という壁にぶつかる方が非常に多いのです。
(2)日常的に何度も使い続けないと上達しない
自慢じゃないですがというより、恥ずかしながら私は英語が苦手でした。まあ、「苦手」が意味するレベルも人によって違うので、ITの技術文書をそこそこ読めるなら苦手とは呼ばないという考え方もあることでしょう。けれど読むのはできても書く方はさっぱりダメ、聞く・話すは壊滅だったのでやはり自分の感覚としては「苦手」です。そんな状態で45を過ぎるまで、何度か勉強しようとしたことはありますが毎回長続きせず、仕事で英語を話す・書く機会もなかったためさっぱり上達しませんでした。
ですが、数年前、具体的には2015年頃から私にしては珍しく三日坊主で終わらず地味?に勉強する習慣が続いてまして、その結果我ながらあれれ? と思うぐらいに上達してきました。まあ、仕事で何度も使った経験は無いのでまだまだですが、少なくとも3時間の研修講師を英語でこなせるぐらいにはなりました。
何をやったかといえば、地味?に単語や表現を調べて英作文をするワークを繰り返したわけです。最初は全然思うように言葉が出てこないのでうんざりしましたが、めげずにずっとやっていたらだんだんと出てくるようになりました。アラフィフでも新しい勉強はできるんですね(笑)。まあ世の中には60過ぎて大学入る人もいますしね。
それで「知っている単語であってもなかなか思うように出てこない」間に感じたのが、
「図解ができない、文章が書けない」と悩んでいる人もこういう状態なんだろうな・・・
ということです。最初のうちは全然できなくてどよーんと落ち込むかもしれません。でも、自分が普段使っているのとは違う新しい表現方法を学ぶのは外国語を学ぶようなものなので、実はできなくて当たり前なんです。ですので、日常的に何度も使い続けてください。
ただし、「使っていればそれだけで上達するか」というとそうはなりません。この点は次の話題で。
(3)単に「使い続ける」だけだと一定のレベルで頭打ちになる
最近あまり見ていないのですが、以前はLang-8という外国語の相互添削サイトをよく使っていました。相互添削というのは、違う言語のネイティブ同士でお互い添削し合うというもので、英作文の勉強をするのに非常に重宝していました。
もちろん相互添削なので私の方は外国人の日本語を添削します。ところが、その中でちょっと気になる現象に気がつきました。日本語を学習中の某氏は毎日必ず日本語の投稿をしてきます。そこそこ上手いので初心者ではないのはわかります。が、しかし・・・半年、一年経っても「そこそこ上手い」レベルから一向に上達しない感じなのです。添削は私を含むいろいろな人にしてもらっていて、「学ぶ材料」には事欠かないはずなのにいったいなぜなのだろう・・・?
そう不思議に思って彼の投稿の様子を見ていると、添削してもらったときのレスポンスが「Thank you!」だけで、ガチで勉強してたら普通いろいろ出てくるであろう「質問」がまったくないことに気がつきました。
おそらく、間違えたときにその間違いの種類を自覚して次の機会に活かす、というフィードバックを全然していなかったのだと思います。日本語の文章を書いたら書きっぱなしで、添削してもらってもそれはその瞬間に右から左に抜けるだけ。その経験を「ああ、このタイプの場面ではこうするんだな」と別なケースに応用できる知見として抽象化して理解することをまったくやっていない。
たとえば英語の例で説明すれば、
(a) I run. He runs.
(b) You walk. She walks.
という2組の例文はいずれも「三人称単数現在なら動詞にsをつける」という共通の法則で理解できるし、それを分かっていれば主語と動詞が別なパターンでも応用が効きます。初歩の英文法ですがこういうのが「抽象化」であり、何を学習するときでも重要なことです。
「抽象化」をしないと知識を応用できませんので He run. と書いて「そこは runs だよ」と添削してもらった直後に She walk. と書くような、同じ間違いを何度も繰り返してしまうわけです。
経験を振り返って抽象化して知見化する、ということをせず、単に「数をこなす」だけだとこういう部分で限界があるので、単に「使い続ける」だけだと一定のレベルで頭打ちになります。He runs. と She walks. を別なものとして覚えているようでは、 buy も speak も tell も go もすべての単語をその調子で覚えていかなければならないので勉強の効率がまったく上がらないわけです。
本人は長い時間をかけて勉強しているつもり、でも全然身につかない。単に「使い慣れる」だけだとそういう落とし穴にハマることがあります。これを避けるためには何が必要なのでしょうか?
(4)法則的知識を知っておくと学習スピードが速くなるのに、なぜか軽視されている
勉強しているつもりでも身につかない「頭打ち現象」を解消するためには、「知見を抽象化してフィードバックしてもらい、その感覚が分かるところまで同じタイプの経験を積む」ことが必要です。たとえば「三人称単数現在なら動詞にはsをつける」というのがその「抽象化された知見」です。そういう知見を知った上で、過去、現在、一人称、二人称、三人称とさまざまなケースで使ってみるとその感覚が身につきます。
つまり英語で言えば文法と言われるものですが、どうもこの文法というやつは人気がありません。まあ文法は学校英語での「難しくて楽しくない」ものの代表格みたいなものですし、「文法を勉強しても全然話せるようにならなかった」というガッカリ感もあるので、人気がないのも当然だとは思います。実のところ私も「文法は不要! 英語は耳から勉強すべき! 楽しく学べる英会話!」的な主張に理があると思っていた時期もありました。
ですが、実際のところは文法を勉強したほうが楽に学習できます。ネイティブが赤ちゃんの時期から母国語を覚えるのと、外国語として言葉を学ぶのとでは学ぶ方法は違って当然で、日本人が英語を学ぶなら文法をやったほうが楽です。
これが実は図解と文章についても同じことが言えるのですよ。カテゴリー・ラベル、サマリー・ラベル、入れ替え禁止、差異明示、MECE、ロジックツリー、PREP、FABE、、、等々、いろいろと「知っておくと便利な法則、手法」があります。聞いたことはありますか? ない、という方のほうが多いことでしょう。こういうものを学校の国語ではやりませんから。
いずれも、コミュニケーションやロジカルシンキング関係の書籍では紹介されています。私の本にも書いてありますので、ぜひ知って使って身につけてください。というわけでそれらをまとめて知るためのコーナーを準備中です。
→伝わる書き方基本パターン・インデックス
(5)現場でフィードバックをくれる人がいると上達が早い
法則的な知識はたとえば社外の研修に行く、書籍や当サイトを読むなどの方法で知ることができますが、実際にそれがモノになるためには現場で使ってみなければなりません。理想的なのは、使ってみたその場で適切なフィードバックが得られることです。
たとえば何かのトラブルが発生して報告書を書いたものの、うまく書けていなかった(わかりにくい書き方をしてしまっていた)としましょう。 そんなとき、1か月後にそれがわかるよりも、書いたその場で文章や図解の観点でフィードバックがあるほうがいいに決まってます。しかしそのためには同じ職場に「頼れる先輩、上司」がいないと難しいですね。たいていその種の文書は機密情報なので社外に出すわけにはいきませんので。
私が英作文の勉強をしたときは、やはりこの「すぐに添削をしてもらえる」ことのありがたみをつくづく感じました。記憶が新しいうちに添削してもらえると学習のスピードが格段に上がります。
同じ職場にそんな相手を見つけることは難しいこととは思いますが、しかしその効果は絶大なので、なんとか探してみてください。
まとめ:図解力・文章力のトレーニングは外国語のようなもの
以上、つまりそういうことです。図解力・文章力の習得は外国語を学ぶようなものです。最初のうちは日本語なのに全然言葉が出てこないことに猛烈にもどかしい思いをしますが、外国語のようなものと思えばそれで当然なので、諦めずに頑張ってください。私はあなたの努力を応援しています!
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